🌸 Episode 2 — 赤い提灯の下の約束(やくそく)
翌日、東京の下町では夏祭り(なつまつり)の準備が最高潮に達していた。
神社の参道には赤い提灯(ちょうちん)が連なり、子どもたちが盆踊りの練習をしている。
太鼓の音が遠くからドン…ドン…と響き、町全体が祭りの気配に包まれていた。
美咲(みさき)は神社の手伝いをしながら、時々スマホを見つめていた。
その画面には、海斗(かいと)からのメッセージ。
「祭りが始まったら会いに行くよ。
一番大きな提灯の下で待っていて。」
その言葉を思い出すだけで胸がぎゅっと締めつけられる。
しかし、祭り当日はとても忙しい。
おみくじの担当、客案内、儀式の準備……
本当に彼と会う時間はあるのだろうか?
不安が少しずつ増えていった。
一方、横浜のオフィスでは海斗が大量のデザイン修正に囲まれていた。
「海斗くん、これ今日中に頼むよ。」
最悪なタイミングだった。
こんな日に限って緊急の仕事が舞い込む。
(今日だけは…今日だけは絶対に遅れられない。)
海斗は決意し、時計を気にしながら必死で作業を進めた。
やがて夜。
東京の神社では提灯が灯り、人々があふれ、祭りの音が心地よく響き始めていた。
美咲は青い浴衣に桃色の帯を締め、一番大きな提灯の下に立っていた。
しかし——
時間だけが過ぎていく。
「…海斗……来ないの?」
胸が痛む。
人波に揺れ、提灯が風に揺れ、心も揺れた。
そのとき。
「美咲!!」
振り向くと、汗だくで息を切らした海斗が立っていた。
「遅れてごめん……でも、どうしても来たかった。」
美咲の目に涙が溜まる。
「本当に……来てくれたんだね。」
海斗は優しく彼女の手を握る。
「東京と横浜なんて、君との距離に比べたら何でもないよ。」
提灯の光が二人を包み、祭りのざわめきが優しい音に変わった。
その瞬間、
二人の距離は、ようやくひとつになった。
🌙 Episode 3 — 御神輿(みこし)の夜、明かされる想い
祭り二日目。
神社には立派な御神輿(みこし)が置かれ、担ぎ手たちは準備に熱を上げていた。
町中が熱気と期待に包まれる夜——それが「御神輿の夜」だ。
美咲は朝から準備に追われていた。
昨日海斗と会えた喜びで胸はいっぱいだったが、今日はさらに忙しい。
神社の巫女として儀式(ぎしき)にも参加しなければならない。
(今日、海斗は来てくれるかな……?)
その頃、海斗は横浜の駅で電車を待っていた。
昨日の疲れが残っていたが、心は軽かった。
美咲に会いたい——それだけが彼を動かしていた。
夜になり、御神輿が動き出す。
「わっしょい!わっしょい!」の掛け声と太鼓の音が響き、町は興奮に包まれた。
提灯の列が美しく揺れ、観客たちは歓声を上げていた。
海斗は人混みの中から美咲を探すが、なかなか見つからない。
「美咲……どこだ?」
焦る海斗の耳に、鈴の音がふわりと響いた。
振り向くと——
巫女装束(みこしょうぞく)を身にまとった美咲が、境内で祈りを捧げていた。
白と赤の衣装に灯りが反射して、まるで別世界の人のように美しい。
海斗はしばらく声をかけられず、ただ見惚れていた。
祈りが終わり、美咲が振り返ったとき、ようやく二人の視線が重なった。
「海斗、来てくれたんだ。」
「うん……なんか言葉が出ないくらい綺麗だった。」
美咲の頬が赤く染まる。
しかしその表情の奥には、少しだけ影があった。
「海斗……実はね、祭りが終わったら言わなきゃいけないことがあるの。」
「言わなきゃいけないこと……?」
美咲はぎゅっと帯を握りしめ、続けた。
「私……もしかしたら東京を離れなきゃいけないかもしれないの。」
御神輿の掛け声が遠くで響く。
しかし二人の周りだけ、音が止まったかのように静かだった。
海斗は目を見開き、息を呑んだ。
「……どうして?」
美咲は一歩近づき、寂しげに微笑んだ。
「でも今日は、まだ楽しい夜にしたい……
だから、この話の続きを聞くのは——あなたが決めて。」
祭りの光が揺れ、二人の影も揺れた。
夜風の中で、
新しい恋の試練が静かに訪れようとしていた。
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