東京―横浜 君への愛より広いものはない
六月の終わり、東京から横浜へ向かう電車の窓には、初夏の光がきらめいていた。
町はもうすぐ始まる夏祭りの準備で慌ただしく、神社の参道には色鮮やかな提灯が吊られ、太鼓の練習の音が遠くから聞こえてくる。
海斗(かいと)は横浜で働くデザイナー。
そして、東京の下町で家の神社を手伝う美咲(みさき)とは、遠距離に近い関係になっていた。
最近は互いに忙しく、会う時間も少ない。
それでも、海斗は「祭りの前に会いたい」とメッセージを送り、美咲も短く「来て」と返した。
横浜の赤レンガ倉庫に着くと、潮風がふわりと吹き抜けた。
浴衣の帯を整えながら美咲が現れた瞬間、海斗の胸は強く締めつけられた。
「久しぶりだね、美咲。」
「本当に来てくれたんだ。嬉しい。」
二人は港を歩きながら、屋台の準備を眺めた。
かき氷の氷を削る音、焼きそばの鉄板から立つ香り。
祭り前の独特なざわめきが胸をくすぐる。
「東京と横浜って、こんなに近いのに、なんだか遠く感じる時があるよ。」
美咲の言葉に、海斗はそっと彼女の手を握った。
「世界で一番近くしたい人が、君なんだ。
だから距離なんて、僕が全部越えていく。」
美咲は頬を染め、港の灯りを見つめた。
「じゃあ…祭りが始まったら、私の町まで迎えに来て。
来てくれたら、ずっとそばにいる。」
海斗は笑顔でうなずいた。
横浜の海より広く、東京の街より深く、自分の想いは変わらないと確信していた。
夜、祭りの練習の太鼓が響く。
二人は海の見えるベンチに座り、静かに肩を寄せ合った。
「海斗…東京と横浜より広いものって、何だと思う?」
「決まってるよ。」
海斗はそっと彼女の手を包んだ。
「君への愛だ。」
胸の奥で、祭り前の花火のような温かさが広がった。
そして二人の未来を照らすように、港の灯りが静かに揺れていた。
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